Supine Positioning for Graft Attachment After Descemet Membrane Endothelial Keratoplasty : A Randomized Controlled Trial
ANNE-MARIE S. KLADNY, et al. (Germany)
Am J Ophthalmol 2024(7);263: 117–125.
目的:DMEK術後の仰臥位保持のプロトコールは、数分から5、6日以上まで大きく異なっている。今回、移植片の接着に対する長時間の仰臥位の有効性を評価した。
対象と方法:Fuchs角膜ジストロフィーからの水疱性角膜症のためDMEKを受けた患者を術後5日間の仰臥位(介入)群と1日間(対照)群に無作為に割り当てた。
前眼部OCTを用いて定量化された術後2週間の移植片剥離の面積と体積、前房内空気再注入、視力、合併症について検討した。
結果:2022 年5月から 2023 年4月の間に、DMEKを受けた計86眼(介入群35眼、対照群51眼)。移植片剥離の平均面積は介入群28.6%、対照群27.5%(P =0.80)、移植片剥離の平均体積は介入群 0.8 µL、対照群0.7 µL であった(P =0.85)。手術後2週間で移植片の3分の1以上が剥離したのは、介入群11眼(31%)、対照群19眼(37%)。術後2 週の間に前房内空気再注入が必要になったのは、介入群10 眼 (29%)、対照群14 眼 (27%) で有意差はなかった
術後2 週間の受診時の視力は1 (視力最悪) から 10 (視力最良) までのアナログスケールで、介入群 6.0、対照群 5.9だった。
最も多い合併症は腰痛で、介入群では43%、対照群では27%であった。
結論:移植片の接着は長時間の仰臥位では改善しなかった。長時間の仰臥位はしばしば腰痛を引き起こした。これまでの研究でも、体位に関係なく接着する事が示唆されており、術後の長時間の仰臥位は必要ないかもしれない。(CH)
Risk of Corneal Graft Rejection and Vaccination
: A Matched Case-Control Study From a United States Integrated Health Care System
JENNIFER H. KU, et al. (California,USA)
Am J Ophthalmol 2024(7);263: 133–140.
目的:大規模な統合医療システムであるKaiser Permanente Southern California(KPSC)の角膜移植レシピエントの大規模集団を用いて、角膜移植片拒絶反応のリスク上昇とワクチン接種との関連を評価した。
KPSCは、南カリフォルニアの住民を代表する約490万人の会員に包括的な医療サービスを提供する統合医療機関である。
対象と方法:2008年1月から2022年8月までに角膜移植を受けた全年齢のKPSC会員。移植の方法には角膜内皮移植、全層角膜移植、深部層状角膜移植術が含まれる。
結果:2008 年 1 月から 2022 年 8 月の間に角膜移植を受けた患者で移植片拒絶反応を経験した601名(症例群)、マッチングされた移植片拒絶反応がなかった1803 名(対照群)。平均年齢 66 歳 [標準偏差 17.0]、女性 52%、非ヒスパニック系白人 47%)。症例群では全層角膜移植術(n=282、46.9%)が最も多く、次いで角膜内皮移植術(n=242、40.3%)、対照群では角膜内皮移植術46.0%(n = 830、46.0%)、全層角膜移植術40.9%(n = 737、40.9%)を受けていた。
症例群 23% と対照群22% が1 回以上のワクチン接種を受けていた(症例群の拒絶反応発症の12 週間前までの期間)。症例と対照を比較した、ワクチン接種の調整オッズ比 (aOR) は 1.17 (95% CI: 0.91, 1.50]) だった。aOR は、1 回のワクチン接種で 1.09 (0.84, 1.43)、2 回1.53 (0.90, 2.61)、3 回1.79 (0.55, 5.57) だった。mRNA ワクチン(COVID-19)では 1.60 (0.81, 3.14)、アジュバント/高用量ワクチン(インフルエンザ、ヒトパピローマウイルス、肺炎球菌、B型肝炎など)では 1.19 (0.80, 1.78)だった。
ワクチン接種期間を8週間前とした結果も、これらの所見と一致していた。
結論: aORは、ワクチン接種回数の増加およびmRNAベースのワクチンに関連した角膜移植片拒絶反応のリスク増加の可能性を示唆した。
しかし、これらの増加は統計的に有意ではなかった。
ワクチン接種と移植片拒絶反応の関連性を示唆する証拠は見つからなかった。この調査結果は、移植片拒絶反応のリスクを大幅に高めることなく、角膜移植患者にワクチン接種することを支持する。(CH)
Correlation between anterior chamber angle status and limbal stem cell deficiency in primary angle-closure glaucoma.
Mao J et al(China)
Amer J Ophthalmol 262(6): 178-185, 2024
・前房角(ACA)の開放か閉塞状態と角膜輪部上皮幹細胞(LEBCs)の濃度との関連について、PACG患者29名54眼で検討し、54眼のCtrlと比較した。
・超音波生体顕微鏡UBMでのACA状態を計測し、共焦点顕微鏡でのLEBCs密度を4象限で評価した。
・UBMは仰臥位で、3、6、9、12時部位で測定し、虹彩周辺部が線維柱帯部に接触していれば隅角閉塞と判定した。
・PACG群の重症度は、ハンフリー視野計のMD値で判定した。初期はMD>―6dB、中期はMDが―6dB~―12dB、末期はMD<―12dB。
①PACG群での上下鼻耳側のLEBCsの平均密度は、Ctrl群より低かった。
②初期、中期、末期PACGでは、LEBCs密度は、隅角閉塞度に応じてCtrl群より少なかった(p<0.05)。
・初期、中期のPACGでは、開放隅角眼よりもLEBCs密度は少なかった(p<0.05)。
③比較分析では、初期のPACGではLEBCs密度は4象限で有意差があったが(p<0.05)、中期PACGでは3象限で有意差(p<0.05)、末期PACGでは2象限のみで有意差があった(p<0.05)。
・このことから、初期のPACGでは隅角閉塞がLEBCs密度に顕著に影響するが、末期では隅角閉塞と病勢の進行が関与していると考えられ、緑内障は角膜輪部の幹細胞密度の減少を伴いながら進行すると思われる。
・隅角閉塞は房水の流れを障害するだけでなく、LEBCs密度を下げ、輪部幹細胞不全(LSCD)を発症する要因になる。(TY)
Scleral thickness in simple versus complex central serous chorioretinopathy.
Imanaga N et al(琉球大)
Amer J Ophthalmol 261(5): 103-111, 2024
・217例217眼の中心性網脈絡膜症CSCを単純CSC167眼と複雑CSC50眼に分けて、強膜厚を測定した。
・強膜厚は前眼部OCTを利用し、4直筋直下の4か所で、強膜岬から6mmの強膜厚を測定した。
・単純CSCと複雑CSCは、自発蛍光とOCTでのRPE変化で分類した。
・複雑CSCは単純CSCよりも、年齢が有意に高く(p=0.011)、男性に多く(p=0.01)、両眼に多く(P<0.001)、視力が悪く(P<0.001)、中心窩脈絡膜厚が厚く(P=0.025)、下液の被包化の頻度が高く(p<0.001)、毛様体脈絡膜の滲出が多かった(p<0.001)。
・CSC眼では正常眼よりも強膜厚が厚いことは以前に報告しているが(Ophthalmol Retina 5:285, 2021)、複雑CSCの強膜厚は上、下、耳、鼻側の全ての位置で単純CSCよりも厚かった(全て p<0.001)。
・複雑CSCは多変量解析では、単純CSCよりも高齢(OR=1.054 95%CI=1.013-1.097 p<0.001)、男性(OR=10.445: 1.151-94.778 p<0.001)、両眼(OR=7.641: 3.316-17.607 p<0.001)、4方向の平均強膜厚(OR=1.022: 1.012-1.032 p<0.001)であった。
・CSCでは強膜が厚く、殊にcomplex CSCでは更に厚い事から、渦静脈が強膜を貫通する部位での絞扼が渦静脈うっ滞の主因と推測される(TY)
Two-Year Myopia Management Efficacy of Extended Depth of Focus Soft Contact Lenses
(MYLO) in Caucasian Children
SERGIO DÍAZ-GÓMEZ, et al. (Australia)
Am J Ophthalmol 2024(4);260: 122–131.
目的:遠用単焦点眼鏡と焦点深度拡張型ソフトコンタクトレンズ(CL)を装用した白人小児における、ベースラインからの眼軸長(AL)と等価球面度数(SE)の変化で近視の進行を評価する。
対象と方法:SEが-0.75~-10.00Dの小児(6~13歳)90名。45名がCL(MYLO ®、markennovy)、45名が眼鏡を装用した。調節麻痺下屈折検査とALを6か月間隔で測定した。 CL 装用 1ヶ月後の視力と快適性に関する主観的な回答は、1 (非常に悪い) から 10 (優れている) までの尺度による質問票を使用して判定された。
CL群は最低週6日、10時間 CLを装用するよう指示された。
対照群は遠用単焦点眼鏡を使用し、起きている間は装用するように指示された。
結果:2年後のSE/AL平均変化量は、CL群で-0.62±0.30D/0.37±0.04mm、眼鏡群で-1.13±0.20D/0.66±0.03mmであった(p<0.001)。CL群では100%がAL増加0.50mm以下であったが、眼鏡群では全員が0.50mm以上増加した。CL群では53%、眼鏡群では1%がSE-0.50D以下の進行だった。すべての質問項目の平均値は9以上であった。
結論:焦点深度拡張型ソフトコンタクトレンズの使用は、遠用単焦点眼鏡の使用と比較して、眼軸長の伸長と近視の進行を抑制した。(CH)
Singh RB, Parmar UPS, Jhanji V. Prevalence and economic burden of keratoconus in the United States. Am J Ophthalmol 2024; 259: 71-78.
・米国でMedicaidとChildren’s Health Insurance Program (CHIP) に登録されている国民で円錐角膜と診断された者を対象とした。
・円錐角膜の有病率について2016年1月から2019年12月までのコホート研究(前向き研究)を行った。対象は約69,502,000名(米国民の20~21%)。Alaska, Utah, Alabama, Vermontの4州を除いて全土の加入者である。
・円錐角膜の有病率は、2016年では0.04% (27,801/69,502,000)、2016年の0.03% (16,266/54,219,600)から増加している。性別では女性の方がtotalで52.47%とやや多く、年代ではどの年でも18-39歳が高い有病率・有病者数を示し、40-64歳がそれに次いでいた(Table 2)。民族ではBlackがもっとも多く、次がHispanicだった。
・上記有病率の結果を得て、円錐角膜による個人の経済的損失について、2011年にRebenitschらが報告した方法(Am J Ophthalmol 2011; 151: 768-773)に則って、クリニックへの通院、コンタクトレンズ、手術、手術合併症などにかかわる生涯の負担額の平均値と中間値で示した。期間中のインフレ補正も行って算出し、米国全国民に換算した結果も示した。(KH)
Vought R, Vought V, Lin M, et al. Gender representation among ophthalmology fellowship directors in 2022. Am J Ophthalmol 2024; 259: 166-171.
・米国では医学生における女性の割合が2019年には50.5%と初めて過半数に達したが、学問や教育の分野での指導的立場にいる女性は少なく、とくに眼科を含む外科系診療科では2016年の時点で約27%にとどまっている。
・眼科での実情を詳しく知るために、2022年での「Fellowship Director」の女性の割合を調べた。(ちなみに、米国での眼科医における女性の割合については、日本での日眼や日眼医に該当する高い組織率のある団体がないため、眼科医総数自体が不明のようである:平野私見)
・Fellowship Directorはわが国での卒後教育体系ではあまり理解できない地位だが、臨床指導体制では大学の主任教授的な、かなり偉い人。学位とMDがあって、今回の研究ではその肩書は、わが国言う講師(assistant professor)が19%、准教授(associate professor)が30%、教授(professor)が51%である。
・眼科でFellowship Directorの任に就いている女性は全体の29%。Fellowship Directorたちの眼科研修を終えてからの平均期間は男性の24年に対して女性は17年であった。
・Program typeおよび国内の地域についてはとくにFellowship Directorの男女比に差はなかった。
・専門分野で言えば、小児眼科と斜視では女性の比率が高く、緑内障、神経眼科、網膜硝子体手術では小さかった。眼科手術の分野では、眼形成と網膜硝子体手術のFellowship Directorの女性比率が低く、角膜・外眼部・屈折矯正手術の分野では比較的高い比率であった。(KH)
Genetic and Environmental Contributions of Primary Angle-Closure Glaucoma and Primary Open-Angle Glaucoma: A Nationwide Study in Taiwan.
Lee JS, et al
Am J Ophthalmol. 258(2):99-109. 2024
目的:原発閉塞隅角緑内障(PACG)及び原発開放隅角緑内障(POAG)の家族リスクを推定し、環境要因と遺伝要因の寄与を評価する。
方法:研究は2000年から2017年の台湾国民健康保険プログラムデータベースを使用し、4,144,508家族を解析した。
polygenic liability modelを用いて緑内障の遺伝率や家族内伝達を推定し、Coxモデルを使用して近親者に緑内障がある場合の調整済み相対リスク(RR)を算出した。
結果:近親者にPACGまたはPOAGがいる人の有病率はそれぞれ0.95%及び2.40%であり、一般人口よりも高い。
PACGの相対リスクは2.44、POAGの相対リスクは6.66と非常に高く、PACG及びPOAGのphenotypic variancesに対するestimated contributionsは、additive genetic variance,がそれぞれ19.4%及び59.6%、common environmental factorsが19.1%及び23.2%、nonshared environmental factorsが61.5%及び17.2%だった。
結論:POAGに対する遺伝的関与とPACGに対する環境的寄与の相対的重要性が強調された。
今後、PACGに関連する新しい環境決定因子の特定が求められる。(KK)
Progressive Changes in the Anterior Segment and Their Impact on the Anterior Chamber Angle in Primary Angle Closure Disease.
Kwak J, Shon K, Lee Y, Sung KR.
Am J Ophthalmol. 257(1) :57-65. ,2024
目的:光干渉断層撮影 (OCT) を用いて前眼部の変化を調査し、レーザー周辺虹彩切開術 (LPI) を受けた原発閉塞隅角症(PACD) 患者の前房隅角の変化を評価する。
方法:後ろ向き臨床コホート研究として、103名のPACD患者を対象に、平均6.5年間にわたりAS-OCTによる追跡調査が行われ、隅角関連パラメータの経時変化が分析された。
結果:angle opening distance (AOD750)の減少は有意ではなかったものの、angle recess area (ARA750)は有意に減少し、lens vault (LV)はLPI後に有意に増加した。
また、平均LVの変化は他の隅角関連パラメータと負の相関関係にあり、瞳孔径(PD)は加齢とともに減少した。
結論:加齢によるLVの増加がLPI治療後のPACD眼において前房を浅くし、隅角を狭くする要因であることを示唆していますが、加齢に伴う瞳孔の収縮と虹彩の薄化がACAの狭窄の影響を相殺する可能性も考えられる。
隅角関連パラメーター:anterior chamber depth (ACD), angle opening distance (AOD750), angle recess area (ARA750), iris thickness (IT750), lens vault (LV), and pupil diameter (PD)、scleral spur angle(SSA)(KK)
Extended Depth of Focus Versus Trifocal for Intraocular Lens Implantation: An Updated Systematic Review and Meta-Analysis.
Karam M, Alkhowaiter N, Alkhabbaz A, Aldubaikhi A, Alsaif A, Shareef E, Alazaz R, Alotaibi A, Koaik M, Jabbour S. (Saudi Arabia)
Am J Ophthalmol. 2023 Jul;251:52-70. doi: 10.1016/j.ajo.2023.01.024. Epub 2023 Feb 1. PMID: 36736751.
【目的】
焦点深度拡大(EDOF)眼内レンズと三焦点眼内レンズを比較
【対象と方法】
PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses)ガイドラインに従い、EDOF眼内レンズと三焦点眼内レンズを比較した研究をレビュー
【結果】
2,200眼が参加した22の研究が同定
三焦点眼内レンズはEDOF眼内レンズと比較して、
球面(平均差[MD]=-0.23、P = 0.001)と等価球面度(MD = -0.11、P = 0.0001)で有意な改善
円柱度数(MD = -0.03、P = 0.25)や乱視度数には差が認められなかった
三焦点眼内レンズは、
無矯正近方視力(MD = 0.12、P < .00001)および遠方矯正下の近方視力(MD = 0.12、P = .002)に優れていた
術後の矯正遠方視力(MD=-0.01、P=0.01)はEDOF群で有意に改善したが、
術後の非矯正遠方視力(MD=0.00、P=0.84)、非矯正中間視力(MD=0.01、P=0.68)、遠方矯正下の中間視力(MD=-0.01、P=0.39)には差が認められなかった。
デフォーカス曲線は、
近方視力では三焦点眼内レンズが、中間視力ではEDOF眼内レンズが有利であった
眼球収差、CS、ハロー(オッズ比=0.64、P=0.10)、グレア、患者満足度は、
両群に有意差はみられなかった
三焦点眼内レンズは、
QoV質問票スコアの改善(MD = 1.24, P = 0.03)および眼鏡からの自立(オッズ比 = 0.26, P = 0.02)と関連していた
【結論】
三焦点眼内レンズはEDOF眼内レンズと比較して非矯正近用視力を改善した。
非矯正遠用視力、中間視力、ハロー、グレアは両群間で統計学的な差はなかった。(MK)
Amer J Ophthalmol 256(12):27-34, 2023
Cho A et al(CA USA)
Role of static and dynamic ocular biometrics measured in the dark and light as risk factors for angle closure progression.
・原発閉塞隅角症疑PACSが原発閉塞隅角症PACに進行する要因について、静的ならびに動的な眼の生体パラメータを、未治療眼において検討した。
・動的な計測にはAC-OCTを用いて明所と暗所での差を求めた。
・対象は861例861眼で、そのうち36例がPACSからPACへの進行例である。
・明所と暗所のTISA500値(mm2)が進行と相関があったが(p<0.001)、その差には相関がなかった(p≧0.08)。
・年齢(Hazard ratio=1.09/年)、IOPが高い(HR=1.13/mmHg)、明所でのTrabecular iris space aera:TISA500(HR=1.28/0.01mm2)が有意に進行のリスクであった(p≦0.04)。
・進行リスクはTISA500の下四分位は、明所ではHR=4.56(p<0.001)で、暗所のHR=2.89(p=0.003)よりも強く相関していた。(TY)
Amer J Ophthalmol 256(12):118-125, 2023
Zhang Yu et al(China)
Influence of goniotomy size on treatment safety and efficacy for primary open-angle glaucoma: a multicenter study.
・POAGに対して、PEA+IOL手術(PEI)と同時あるいは単独で行った隅角切開(120,240,360度切開)の効果と安全性について、多施設で検討した。
・手術成功とは術後眼圧が追加手術なしで、6-18mmHgで、IOPが20%以上低下したものとした。
・追加点眼薬が必要な場合は条件付き成功、不要な場合は完全成功とした。
・231例を平均14.4±8.6か月(6.0-48.0)経過観察した。
・眼圧下降、術後点眼薬数、生命表分析では、3群間に有意差は見られなかったが、前房出血は360度切開が最も多かった。
・12か月後の完全と条件付き成功率は、単独手術では、120,240,360度切開で、35.1%,46.1%,45.0%(完全)、66.4%,75.1%,75.1%(条件付き)。
・PEI併用手術では、52.9%,61.6%,51.4%(完全)、67.0%,82.7%,79.5%(条件付き)であった。
・POAGにおいて、120,240,360度切開は、PEIを同時に行っても、行わなくても、眼圧下降効果はほぼ同等であり、360度切開は前房出血をきたしやすく、120度切開で十分であると考えた。(TY)
Role of Static and Dynamic Ocular Biometrics Measured in the Dark and Light as Risk Factors for Angle Closure Progression.
Cho A et al
Am J Ophthalmol. 256(12) :27-34., 2023
目的:暗所と明所で測定された眼の静的および動的バイオメトリックパラメータが、原発閉塞隅角疑い(PACS)から原発閉塞隅角(PAC)への進行を予測する役割を評価した。
方法:未治療の対照眼からの前向きランダム化比較試験データを用いたレトロスペクティブコホート研究。
Zhongshan Angle Closure Prevention Trial(中山隅角閉塞予防試験)の被験者が前眼部光干渉断層撮影(AS-OCT)に施行、静的バイオメトリックパラメータおよび動的変化パラメータが測定され、原発閉塞隅角症(PACD)進行の危険因子を評価するためにCox比例ハザード回帰モデルを使用した。
結果:861人の参加者が分析され、そのうち36人が進行した。単変量解析では、明るい場所と暗い場所でのTISA500測定値が進行と関連していたが、動的変化パラメータは関連性が見られなかった。
主要な多変量モデルでは、高齢や眼圧の上昇、明るい場所でのTISA500の減少が進行リスクの増加と有意に関連していた。また、暗い場所でのTISA500は明るい場所での測定値と同様の有意性を持っていた。
特に、明るい場所でのTISA500測定値の最低でも25%位の眼は、暗い場所での測定値と比較しても進行リスクの予測においてより高い値を示した。
結論:明るい場所で測定された静的パラメータは、暗い場所で測定されたものと同程度、またはそれ以上に閉塞隅角の進行を予測する能力があることが示された。
さらに、明るい場所と暗い場所での眼のバイオメトリックパラメーターは、閉塞隅角進行に関する患者のリスク分類に有用な情報を提供する可能性がある。
・AOD500:角膜後面の強膜岬から500μmの点から虹彩までの距離(mm)
・TISA500:AOD500、角膜後面、強膜岬からAODと平行に引いた線、虹彩表面の4つの線で囲んだ面積(mm2)
・ACA:角膜後面と虹彩表面の角度(deg)(KK)
Risk Factors for Flat Anterior Chamber Requiring Intervention After Glaucoma Drainage Implant: A Retrospective Case-Controlled Study.
Sheheitli H, et al
Am J Ophthalmol. 256(12):39-45., 2023
目的は、合併症のないBaerveldt緑内障インプラント(BGI)手術後の90日間において、前房平坦化に関連するリスク要因を特定する。
方法:2011年2月1日から2019年1月1日までの間にAnne Bates Leach Eye HospitalでBGI手術を受けた42例を対象とし、各症例に対してマッチした84の対照を設定したレトロスペクティブな症例対照研究。
性別、診断、糖尿病、高血圧、術前および術後の緑内障治療薬、眼の状態、眼圧(IOP)などの変数が、多変量条件付きロジスティック回帰によって独立した予測因子のオッズ比(OR)が算出された。
結果:症例患者は女性である可能性が高く、チューブ開放時に経口炭酸脱水酵素阻害剤(CAI)の服用歴があることや、他の人種・民族 (not White, Black, Hispanic, or Asian)であること、偽性落屑の存在、ベースラインでのコリン作動薬(副交感神経作動薬:アトロピン)の不使用、原発開放隅角緑内障である可能性が低いことが示された。
さらに、症例患者の平均年齢は高く、チューブ開放時期は早く、チューブ開放後のIOPは低い一方で、開放前のIOPは高いことが観察された。
特に独立した予測因子としては、高齢(10年ごとにOR=3.59、P<.0001)、チューブ開放時の経口CAI使用(OR=5.65、P=0.009)、チューブ開放前の高IOP(3 mm HgごとにOR=1.30、P=0.018)が特定された。
結論:平坦前房のリスク因子は高齢、チューブ開放時の経口CAIの使用、及びチューブ開放前のIOPの上昇である。
このことから、チューブ開放前に経口CAIを中止するなど、急激なIOP低下を抑えることが推奨される。(KK)
The Sensitivity of Ultra-Widefield Fundus Photography Versus Scleral Depressed Examination for Detection of Retinal Horseshoe Tears
ANDREW C. LIN,et al. (California, USA)
Am J Ophthalmol 2023(11);255: 155– 160.
・目的:超広角走査型レーザー検眼鏡(UWF)は、強膜圧迫を併用した双眼倒像検眼鏡下眼底検査(SDE)と併用して網膜周辺疾患の評価に使用されている。
・眼科の遠隔診療ではこの検査への依存度が高まっているため、UWF単独で実施した場合の網膜周辺部の疾患の検出に対する有効性を評価することは重要である。
・今回、網膜馬蹄形裂孔(HST)の検出におけるUWF画像の感度を評価する。
・対象と方法:2020年1月1日から2022年12月31日までにSDEでHSTと診断され、レーザー治療を受けた患者を対象とした。
・123人(男性64人(52.0%)、女性59人(47.9%)、平均年齢57.3±13.1歳)、右眼69例(51.1%)、左眼66例(48.9%)。HSTに対するUWF画像診断を網膜専門医によるSDEと比較した。
・結果:SDEで確認されたHSTのうちUWF確認されたのは左右合わせて69 例(51.1%) だった。
・上方、下方、鼻側、耳惻でそれぞれ7/41例(17.1%)、8/25例(32.0%)、7/14例(50.0%)、47/55例(85.5%)だった。
・結論:HSTの半数近くがUWF画像では見逃された。特に上方での感度が低いことを示している。
・主な原因として、熟練した撮影者の確保、アーチファクト(睫毛、眼瞼縁、フェイスマスク、まぶしさ)、真の色調ではないことが考えられる。
・ HSTの治療の緊急性とRDによる重大な視覚障害の可能性を考慮すると、PVDまたはHSTを示す症状の評価において眼底検査の代替として UWF 画像に依存すべきではない。(CH)
A Systematic Review and Meta-analysis of Systemic Antihypertensive Medications With Intraocular Pressure and Glaucoma.
Leung G, et al
Am J Ophthalmol. 255(11):7-17. 2023
目的:全身性降圧薬と眼圧(IOP)、および緑内障との関連性を調査した文献を解析する。
降圧薬には、β遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体遮断薬、利尿薬が含まれる。
方法:研究のデザインは系統的レビューとメタ分析で、2022年12月5日までに関連する研究をデータベースで検索し、全身性降圧薬と緑内障との関連性、または緑内障や眼圧上昇のない患者における全身性降圧薬とIOPとの関連性を調べた研究が対象となった。
結果:合計11件の研究がレビューに含まれ、10件がメタ分析に組み込まれた。
IOPに関する3件の研究は横断的であり、一方で緑内障に関する8件は主に縦断的研究だった。
メタ分析の結果、β遮断薬は緑内障のオッズを低下さ、IOPも低下することが確認された。
一方、カルシウムチャネル遮断薬は緑内障のオッズを上昇させるが、IOPには関連しなかった。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体遮断薬、利尿薬に関しては、緑内障やIOPとの一貫した関連は認められなかった。
結論:全身性降圧薬は緑内障およびIOPに対して不均一な影響を及ぼすことが示された。
は、これらの薬剤がIOP上昇を隠す可能性や、緑内障のリスクに対してプラスまたはマイナスの影響を与えることに注意を払う必要がある。(KK)
Amer J Ophthalmol 254(10):104-113, 2023
Itoh K(室蘭)
Stainability of acrylic intraocular lens with Brilliant blue G: An in vitro study.
・アクリルIOLのbrilliant blue G(BBG)への染まりやすさについてin vitroで調査した。
・親水性アクリルIOLとしてLentis Comfort(LS313)を、疎水性アクリルIOLとしてX70、W60R、CP2.2R、YP2.2R、XC1、XY1を用いた。
・BBG濃度は、0.025, 0.25, 2.5, 25 mg/mlを使用 (当院では0.5mg/ml濃度のBBGを使用)
・すべてのIOLは時間と濃度に比例して内部までBBGに染色され、ほとんど脱色されなかった。
・親水性アクリルIOLで顕著であった。(TY)
Amer J Ophthalmol 254(10):161-176, 2023
Baek MS et al(Korea)
Morning blood pressure surge and glaucomatous visual field progression in normal-tension glaucoma petients with systemic hypertenision.
・高血圧の内服薬を使用中で、正常眼圧緑内障患者(NTG)と新規に診断された127名127眼において、ベースライン時に早朝血圧急上昇(MBPS)がある患者の視野変化について、最低2年間経過をみた。
・対象者全員はベースライン時に24時間血圧モニター(ABPM)検査を受け、経過中に最低5回の視野検査を受けた。
・視野進行はEarly Manifest Glaucoma Trial criteriaで判断した。
・平均5.2年の経過観察で38眼(29.9%)で視野進行があった。
・多変量Cox回帰分析では、ベースライン時のMBPSが大きいほど(HR=1.033 p=0.024)、夜間の平均動脈圧(MAP)の最低値が低いほど(HP=0.965 p=0.031)、有意で独立した視野進行の予測因子であった。
・生命表分析では、視野進行の予測見込みは、ベースライン時のMBPSがより高いことであった(p=0.021)。(TY)
Safety and Efficacy of Twice-Daily Pilocarpine HCl in Presbyopia
SHANE KANNARR, et al. (Kansas, USA)
Am J Ophthalmol 2023(9);253: 189–200.
・目的:老眼患者を対象に、ピロカルピン塩酸塩1.25%点眼液を1日2回(6時間間隔)、14日間両眼投与したときの安全性、有効性、薬物動態を対象と比較して評価する。
・対象と方法:日常生活に影響を及ぼす近見視力低下の訴えを有し、薄暗くても明るくても両眼近見視力が20/40~20/100である健康状態の良好な成人(40~55歳)を対象とした。ピロカルピン塩酸塩1.25%点眼液を1日2回投与群と非投与群に無作為に割り付けた(1:1)。主要エンドポイントは14日目2回目点眼の3時間後において、遠見視力をほぼ低下なしに、両眼近見視力が3 line以上改善とした。第2エンドポイントは遠見視力をほぼ低下なしに、両眼近見視力が2 line以上改善とした。
・ピロカルピンの血中レベルは、参加者の約 10% で評価された。
・結果:主要エンドポイントと第2エンドポイントを達成した参加者の割合は、対象よりも ピロカルピン投与群の方が統計的に有意に高く、群間差はそれぞれ 27.3% (P < .01) と 26.4% (P < .01)だった。
・最も一般的な副作用は頭痛で、投与群10 人 (8.8%) と 非投与群4 人(3.4%) で認めたれた。網膜剥離、硝子体剥離、網膜裂孔、硝子体黄斑牽引の報告はなかった。
・薬物動態は14日目の1日2回目の投与後、蓄積指数はC maxあたり1.11、AUC 0-tauあたり1.03であり、投与期間中の全身への影響は最小限であった。
・結論:ピロカルピンは2つのメカニズムで近見視力を増強する。(1)虹彩括約筋の収縮によるピンホール効果(2)毛様体筋の収縮に関与し、水晶体の中心がsteepになり、近方物体への焦点を改善する。
・ピロカルピン塩酸塩1.25%点眼液1日2回投与は、遠見視力を損なうことなく、近見視力の有意な改善を示した。 投与期間中、ピロカルピンの全身蓄積はほとんど認められなかった。(CH)
An association between large optic cupping and total and regional brain volume: The Women’s Health Initiative.
Wang C et al(IL USA)
Amer J Ophthalmol 249(5): 21-28, 2023
・視神経乳頭陥凹と脳容積との関連を検討した。
・Women’s Health Initiative (WHI) Sight Examination研究で、cup-to-disc ratio(CDR)測定を行ない、WIH Memory研究でMRI検査で脳容積を測定した65~79歳の緑内障を持たない471名の女性(69.2±3.6歳、92.8%が白人)を対象とした。
・CDR値は両眼の立体写真をとり、縦のCDR値を求めた。
・どちらかの眼で、CDR値が0.6以上のものを大きなCDRと規定して解析した。
・471名の女性のうち、34名(7.2%)が大きなCDRであった。
・MRIでの側脳室の大きさは、大きなCDRの人はそれ以下のCDRの人と比較して、3.01cc大きかった(95%CI=0.02~5.99 p=0.048)。
・また、大きなCDRの人は、前頭葉の大きさが4.78cc小さく(95%CI=-8.71~0.84 p=0.02)、後頭葉の大きさが1.86cc小さかった(95%CI=-3.39~-0.3 p=0.02)。
・大きなCDRの人は視神経や脳の加齢を示している可能性がある。(TY)