色覚の検査とは?
色覚特性の検査には通常、「石原色覚検査表」が用いられます。このスクリーニング検査で色覚特性に異常があると判定されると、次に、そのタイプを調べます。
二型色覚と一型色覚を正確に区別するにはアノマロスコープという特殊な器械が必要ですが、通常は「標準色覚検査表」をはじめとした各種の色覚検査表や、パネルD-15テストという色並べ検査結果で診断します。このパネルD-15テストをパスすれば「中等度以下の異常」、パスしない場合は「強度異常」と判定されます。
石原色覚検査表Ⅱ
一見、ランダムに配置されたように見える明度や彩度を巧妙に変えた多数の丸い色斑を用いて文字や形が描かれています。色覚特性が正常な人には描かれた図柄が容易に判別できますが、色覚特性に異常のある人には判別しにくいものです。一方、色覚特性が正常な人は色相差に注意を奪われるために形状が理解できないものでも、色覚特性に異常のある人には濃淡差が強調されて文字や形が判別される表もあり、混同色線上の色の組み合わせや濃淡差が巧妙に利用されています。
石原色覚検査表Ⅱ 国際版38表
1
38
正常者、異常者ともに読める
2
30
35
正常者と異常者が異なる読み方
9
32
正常者のみ読める
15
異常者のみ読める
19
分類表
パネルD-15テスト
色覚特性の異常の程度の判定に汎用されているものが色相配列検査(The Farnsworth D-15 test、通称:パネルD-15テスト)です。
The Farnsworth D-15 Test
<パネルD-15 テスト>
色覚特性の異常の程度の
分類を行うためのもの
テストキャップ : 彩度=4
パイロットキャップ : 彩度=6
パネルD-15テストのキャップを均等色度図(CIE1976 u’v’色度図)上にプロットしたもの。
図内の赤線は1型色覚の混同色線、青線は2型色覚の混同色線を示しています。
アノマロスコープ検査
色覚特性の判定の基礎になっているもので、色覚特性に異常のある人の色光に対する視感度の違いや色混同を利用しています。検査光には一型色覚と二型色覚の混同色線が一致するスペクトル軌跡上の緑(546nm)、黄(589nm)、赤(671nm)の3色が選ばれており、緑と赤を混色させて黄と等色させ、その等色域の位置と範囲から色覚特性の型を診断するものです。
アノマロスコープ検査
ナーゲル社製アノマロスコープ
ナイツ社製アノマロスコープ
視角 : 2°10’
視角 :13°〜20°
観察距離 : 30〜20cm
絶対均等
5秒以上明順応
3秒以内で判定
1型3色覚
1型2色覚
2型3色覚
2型2色覚
上半円に呈示された赤と緑を混同させた光を下半円の黄色光と等色させ、等色した時の赤緑の混色比と黄色光の明るさから色覚特性の診断をする器具です。
アノマロスコープの等色域
左図は正常者()、1型色覚異常者(赤)、2型色覚異常者(緑)の比視感度曲線。
右図は均等色度図(CIE1976 u’v’色度図)で、図内の点線は1型、実線は2型色覚の混同色線です。
アノマロスコープに使われている546nm、589nm、671nmの3色は1型色覚、2型色覚の両者の混同色線上にあることがわかります。
色覚特性に異常があるといわれたら
進学、就職の心配
平成5年頃までは色覚特性に異常のある人の入学を制限していた大学や専門学校が多くありましたが、近年では特殊な大学や専門学校を除き、制限がなくなりました。また就職時の健康診断で色覚検査をしなくてもよくなりました。全ての人の人権を尊重し、均等に機会を与えていこうという本来の姿になってきています。
しかし見方を変えれば、学んだり、仕事を選択する判断やその結果に対する責任を、全ての人に同等に負わせる状況になってきたということです。色覚特性に異常のある人は自分で自身の色に対する能力を判定し、自己責任で進むべき分野を選んでいかなければならない厳しい状況になってきたともいえます。就職するときには、できるだけ具体的に仕事の内容を調べておくことが大切です。
就職に際して問題になる場合とは
自動車運転免許は、色覚特性に異常があってもほとんど問題なく取ることができます。また就職に際しても、よほど特殊な職場でなければ問題はおこりません。しかし、豆粒の様に小さな信号灯の色の判断を、他の情報がほとんどない真っ暗な中でも瞬時に求められるような、航空機のパイロットや鉄道運転士、船舶航海士には残念ですが適性がありません。
学校保健安全法施行規則の一部改正
自分の色覚特性に異常があると気づかないまま進学や就職を迎え、その時点で初めて色覚特性の異常を指摘され、余儀なく進路変更をせざるを得なかった状況等も報告されてきたことから、平成26年(2014年)に学校保健安全法施行規則の一部改正が行われ、「児童生徒等が自身の色覚の特性を知らないまま不利益を受けることのないよう、より積極的に保護者等への周知を図る必要があること」とされました。
社会に望まれること
これまで長い間、プライバシー保護の観点のないまま、「石原色覚検査表」を用いた色覚検査が学校での健康診断で行われてきました。検査を横から覗いていた友人に「こんなのが読めないの?」と驚かれ、その延長線上で色覚特性に異常のある人は不当に差別されてきました。
だからといって色覚検査そのものが悪いわけではありません。色覚特性に異常があった場合、自分自身でそのことを知っていればいろいろな対策を立てることができるからです。例えば、物の色を覚えると人の顔を緑に塗るような色使いはしなくなります。これも一種の学習で、クレヨンや色鉛筆に色が分かるように色名を付けておくことは大切な学習補助になります。
学校現場でも色覚特性に対する理解が進んできています。緑の黒板には赤のチョークは使わず、白か黄色のチョークで書くように学校の先生は注意しているはずですし、現在使われている教科書には、色のバリアフリーに配慮した色使いが工夫されています。
社会に望まれることは、色覚特性に多様性があることを前提とした環境を作ることです。色覚特性に異常のある人たちが色混同や色誤認をおこしにくく、色覚特性が正常な人にも心地よいと感じられるようなユニバーサルデザイン化を推進していくことが大切です。
カラーユニバーサルデザイン
色覚特性に異常のある人へのバリアフリーとして、カラーユニバーサルデザインが提唱されています。これは色覚特性に異常のある人に配慮した配色を基本にしたもので、色覚正常者にも自然に感じられ、高齢者にも優しく見やすいデザインです。
例えば、青と黄色の組み合わせであったり、明るさや鮮やかさに差をつけたもの、あるいは、色の周囲に白や黒やグレーなどの無彩色で縁取りをつけたり、表示の形を変えたデザインです。
色覚特性の異常は治るものではありませんが、近い将来、さまざまな分野にカラーユニバーサルデザインが採用されてくると、誰もが住みやすい世界になることでしょう。
■色覚特性に異常のある人に分りやすく、色覚特性に異常のない人にも自然な色の組合わせ
色文字
- 背景色と図色との明度差をつける
- 書体、大きさ、囲み枠などで変化をつける
- 色名を添える
2003年7月から、青、赤、緑、黄の色名が表示されるようになりました。
色の選択
- 赤は、黄に近い橙色にする
- 緑は、青か青緑にする
一型色覚の混同色線
二型色覚の混同色線
黄線(1-2-3, 4-5-6) … 混同しやすい
橙線(7-8) … 混同しない
混同色線上の色は、明るさの調整さえすれば、2色覚者には同じ色に見え、判別することはできません。
色の組合せ
- 混同色線と直交する色の組合せ、例えば、青と黄の組合わせを選択する
- 緑明度や彩度を変えてコントラストをつける